横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)3157号 判決
原告
中嶋和夫
被告
丸山春子
ほか一名
主文
一 被告丸山春子は、原告に対し三三七万五七一一円及びこれに対する昭和五七年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日新火災海上保険株式会社は、被告丸山春子に対する本判決が確定したときは、原告に対し、三三七万五七一一円及びこれに対する右確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告丸山春子は、原告に対し、六五六万一五二二円及びこれに対する昭和五七年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 彼告日新火災海七保険株式会社は、原告に対し、被告丸山春子に対する本判決が確定したときは、六五六万一五二二円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機によつて交通整理の行われている交差点における直進車と右折車の衝突事故で負傷した直進車の運転者から、右折車の運転者及び(右折車の運転者に対する判決確定を条件として)その契約保険会社に対し損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 事故の発生(以下「本件事故」という。)
日時 昭和五七年一二月九日午後〇時三〇分ころ
場所 神奈川県大和市大和南一―一二県道五号線上(深見交差点)
原告車 普通乗用自動車(相模五五あ七〇八五)運転者 原告
被告車 普通乗用自動車(相模五八む六九八二)
運転者 被告
態様 原告車が右県道を深見方面から小田急線大和駅方面に向かつて時速三〇キロメートルで進行し、本件事故現場の深見交差点に差し掛かつたところ、同交差点を大和駅方面から藤沢方面に向けて右折進行してきた被告車と出会い頭に衝突した。
2 原告は、本件事故前の昭和五五年二月六日、交通事故により傷害を負い(以下「前事故」という。)、昭和五五年二月六日から昭和五六年一一月二六日まで(三四日間)相模原市内の黒河内外科に入院し、その後通院治療を受けたが、昭和五六年一一月二六日自賠法施行令二条後遺障害別等級表一四級一〇号該当の後遺障害を残して症状固定の診断を受けた。
3 原告は、昭和六〇年八月三一日、本件事故による傷害につき症状固定の診断を受けたが、自賠責調査事務所の事前認定の結果は非該当であつた。
4 被告らは、本件事故の損害賠償として合計二八六万四六五九円を支払つた。
5 被告丸山春子は、被告日新火災海上保険株式会社との間に、被告車につき、本件事故発生日を保険期間内とする保険金額七〇〇〇万円の自動車対人賠償責任保険契約を締結していた。
二 争点
1 本件事故と原告の傷害との間の因果関係
被告は、原告が本件事故によつて負つたとする傷害は、前事故による後遺障害そのものであり、仮に原告が本件事故により傷害を負つたとしても、前事故による後遺障害の残存という体質的素因と前事故による心理的ダメージの影響という心因的要素が影響しており、これを前事故の寄与度として損害額を相当な割合で減額すべきである旨主張する。
2 原告の過失(過失相殺)
3 損害額
第三判断
一 本件事故と原告の傷害との間の因果関係について
1 証拠及び争いのない事実によれば、次の事実が認められる。
(一) 前事故は、神奈川県座聞市内の県道で時速約三〇キロメートルで走行中の原告運転の自動車と中央線を越えて時速約一〇〇キロメートルで走行してきた対向車両が正面衝突したものであり、これにより原告運転車両は廃車となり、原告は、頭部挫傷(血腫及び擦過創)、頸部捻挫、腎損傷、左腹部挫傷、右前腕・右膝部挫傷、腰部挫傷、右胸部挫傷、左下腿挫創等の傷害を負つて、三四日間の入院加療の後、昭和五五年三月一一日から症状固定の約四か月後の昭和五七年三月一二日まで(実通院日数五〇三日)黒河内外科に通院して治療を受けた。症状固定時(昭和五六年一一月二六日)の後遺障害診断書において、原告の症状は、自覚症状として後頸部、首、肩の疼痛、右上肢の痺れ、腰痛が認められるとされ、他覚的所見に乏しいものであつたが、局部に神経症状を残すものとして、前記のとおり自賠法施行令等級表一四級一〇号の後遺障害の認定がなされた(乙四の2、4、5、7、8、六の1、つ一、七の1、2、八の1、2、九の1、2、一〇の1、2つ一、一一の1、2、一二の1、2、原告本人)。
(二) 原告は、前事故による傷害の治療中ではあつたが、昭和五六年六月ころからタクシー運転手の仕事を再開し、本件事故に至るまで健康時と同様の稼働状況を続け、同僚運転手の平均実働稼働高を超える実績をあげていた(甲一五の1~19、原告本人、弁論の全趣旨)。
(三) 原告は、本件事故後、大和市内の柳橋病院において外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、右上腕神経不全麻痺、右膝打撲挫傷の診断のもとに、昭和五七年一二月一一日から昭和五八年三月二四日まで(一〇四日閤)入院治療を受け、昭和五七年一二月九日と同月一〇日及び退院後の昭和五八年三月二五日から同年一一月八日まで(実通院日数一八五日)通院したが転医し、同年一一月一九日から昭和五九年一月二六日までの間、関東労災病院(実通院日数四日)及び国立相模原病院(実通院日数九日)への通院を経て、同年一月二九日から症状固定の診断がなされた昭和六〇年八月三一日まで(実通院日数二四九日)井上外科整形外科に通院し治療を受けた。井上外科整形外科の作成した後遺障害診断書によれば、症状固定時の原告の症状は、自覚症状として、頭部痛、頸部痛、上下肢末梢神経炎症状、腰痛、軽度のめまいが認められるというものであり、自賠責調査事務所の事前認定における判断内容は、軽度のめまいを除く右症状を捉え、前事故による後遺障害と同様の自賠法施行令等級表一四級一〇号に該当するが、前事故において同様の認定がなされているため、本件事故による後遺障害は非該当とするというものであつた(甲三、四の1、2、二五~二七、乙二、三原告本人、弁論の全趣旨)。
(四) 本件事故は、被告が先行するトラツクの陰となつて前方の見通しが極めて悪い状態であつたにもかかわらず、右トラツクの車体からわずかに対向車線側に出ていた車体をさらに前方に出して対向車線の安全を確認しながら右折しようと、ローギヤでブレーキを踏みながら発進したところ、対向車線を時速約三〇キロメートルで直進してきた原告車の右前部と被告車の前部中央付近が衝突したものであり、被告は本件事故によりハンドルが顎に当たり口腔内を切つて出血したが、被告車の同乗車は何ら障害を負わなかつた。また本件事故による物損は、原告者の損害額が一八万六八五〇円、被告車の損害額が六五万四一七〇円とされ、本件事故の過失割合を原告三、被告七として示談が成立した(甲二二、原・被告本人)。
2 右の事実によれば、原告は、前事故による後遺障害について、自賠法施行令等級表一四級一〇号の認定を受けたものの、本件事故当時には既にタクシー運転手として稼働することに特別の支障がない程度に症状が軽快していたものと考えられる。しかし、他方、前事故及び本件事故の各態様及び各車両のスピードの差などを比較すると、本件事故によつて原告が受けた衝撃は前事故時に原告が受けた衝撃を下回ることが推認できるにもかかわらず、本件事故後の治療経過が前事故後の治療経過に比べ長期にわたつていること、前事故及び本件事故の原告の受傷部位がほぼ一致し、症状も自覚症状を主体とし、その内容がほぼ同一であること等を考慮すると、原告の本件事故による傷害内容・程度には、前事故が何らかの意味で影響を及ぼしている可能性を完全には否定できないものの、前事故の影響の内容・程度を明らかにする具体的資料はなく、公平の見地から被告の負担する損害賠償債務を減額すべき事情を認めるに足りる証拠はない。従つて、本件事故により原告は傷害を負わなかつたあるいは前事故による寄与度を考慮すべきとする被告の主張は採用できない。
二 原告の過失(過失相殺)
争いのない事実1及び前記一認定の本件事故の具体的態様からすると、本件事故は被告の前方不注視による過失を主たる原因として発生したものであることが明らかであるが、原告にも右折車両の存在を予見して徐行する等の注意義務があるにもかかわらず、これを怠つた過失が認められ、両者の過失割合は、原告一、被告九と認めるのが相当である。
三 損害額
1 治療費 二四〇〇円
原告は、本件事故による喉頭外傷の傷害によつて国立相模原病院その他耳鼻科医院の診察を受け、診察料として合計二四〇〇円を支払つた(甲二六、弁論の全趣旨)
なお、他に被告が支払済みの治療費として合計一一四万七一九九円が認められる(甲四の2、弁論の全趣旨)。
2 通院交通費 二四万二四〇〇円
原告は、柳橋病院、関東労災病院、国立相模原病院及び井上外科整形外科の各病院への通院のための交通費として左記のとおり合計二四万二四〇〇円を支出した(甲四の1、2、五の1、原告本人、弁論の全趣旨)。
柳橋病院 実通院日数一八五日
一回の通院費用六八〇円
関東労災病院 実通院日数四日
一回の通院費用五三〇円
国立相模原病院 実通院日数五日
一回の通院費用五六〇円
井上外科整形外科 実通院日数二四九日
一回の通院費用四四〇円
3 入院雑費 一〇万四〇〇〇円
原告の入院期間中の雑費としては、一日当たり一〇〇〇円が相当である。
4 文書料 二万円
原告は、柳橋病院、井上外科整形外科及び国立相模原病院に対し、診断書料として令計二万円を支払つた(甲六の116)。
5 休業損害 三五八万四四一三円
原告の本件事故時の収入日額が八二八〇円であることは当事者間に争いがなく、原告は、本件事故により昭和五七年一二月九日から昭和五八年一二月二〇日まで休業してその間の給与を得られなかつたうえ、昭和五八年の夏期賞与につき二三万六八四〇円、年末賞与につき二二万六〇一三円がそれぞれ減額となつたことが認められる(甲七~九、原告本人、弁論の全趣旨)ので、右休業期間の損害は、合計三五八万四四一三円となる。
原告は、他にタクシーの乗客からのチツプ代を損害として主張するが、休業期間のチツプ収入については、不確定な要素が大きく、原告主張の額が得られる蓋然性が高いとはいいがたいので、本件事故と相当因果関係にある損害として認めることはできない。
6 逸失利益
原告は、本件事故による後遺障害のため二年間にわたり五パーセントの労働能力を喪失した旨主張し、三一万六五四九円の逸失利益を請求するが、前記認定のとおり、原告は、前事故による傷害の治療中からタクシー運転手の仕事に復帰し、同僚を凌ぐ実働稼働高をあげていたのであり、本件事故による後遺障害が前事故による後遺障害と同様の内容・程度であると考えられることからすると、逸失利益を認める程度の後遺障害が原告に残存したものとは認めがたい。
7 慰謝料 一五〇万円
本件事故の態様、原告の傷害の内容・程度等本件に現れる一切の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては、一五〇万円が相当である。
なお、後遺障害慰謝料は、右6の理由により認められない。
8 借入金の利息
原告主張の借入金の利息については、本件事故と相当因果関係にある損害と認められない。
9 過失相殺
前記のとおり、本件事故の発生については、原告にも一割の過失が認められるので右損害総額六六〇万〇四一二円(被告が支払済みの治療費を含む。)の内一割を減額すると、原告の損害は五九四万〇三七〇円となる。
10 損害の填補
原告は、本件事故による損害の内合計二八六万四六五九円の填補を受けているので(被告が支払済みの治療費を含む。)、過失相殺後の右損害額からこれを控除すると三〇七万五七一一円となる。
11 弁護士費用 三〇万円
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては、三〇万円が相当である。
四 以上によれば、原告の請求は、三三七万五七一一円及びこれに対する事故の日である昭和五七年一二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
(裁判官 近藤ルミ子)